意識低い大学院生、森林を考える

某大学森林科学科の同期4人で運営する共同ブログです。森林・林業の魅力を発信し、最新の知見も紹介します。現在、大学院修士課程に在学中。

「緑の雇用」を新規担い手の確保に生かす

 お久しぶりです。今回の記事は、Tが担当します。諸事情によりブログの更新がだいぶ空いてしまいましたが、気を取り直して再開していきます。

 

 前回の記事では、近年の林業担い手の絶対数減少及び高齢化という問題に関して、「緑の雇用」という制度が考案され、効果を発揮してきたことを述べました。「緑の雇用」それ自体は、①新たに雇用した林業従事者を講義やOJTを通して育成し、②新たに従事者を雇用した事業体に対し補助金等を支援する制度です。したがって、「緑の雇用」の利用をスタートするためには、新たな従事者を見つけ、雇用することが必要不可欠となります。「緑の雇用」の効果的な活用を図るためにも、新規従事者の安定的な確保体制が構築されていることが必要不可欠です。

 新規従事者を安定的に確保する手段として近年注目を集めるのがインターンシップの受け入れです。インターンシップを通して林業に対する理解及び興味関心が喚起され、生徒が将来的に林業に就業する可能性が高まることがインターンシップに期待されています。高校生や大学生のインターンシップ受け入れの実施を継続的に行うことにより、高校・大学と事業体との間で良好な関係が構築され、安定的な従事者確保につながる可能性があります。

 しかしながら、インターンシップはあくまで林業に対する理解・興味・関心の喚起につながるものであり、それ自体で若年の従事者を確保することはできません。インターンシップ単独だけではなく、高校を訪問し就業相談会・就業説明会を行うなど、従事者確保に向けた他の取り組みと併せて行っていく必要があります。また、インターンシップ受け入れを1年だけ行うのではなく、継続的に実施していくことも重要です。

 インターンシップ等様々な取り組みを行うことで確保した従事者を、「緑の雇用」の育成につなげるという流れが重要です。「緑の雇用」を単独で活用したり、インターンシップ受け入れのみを実施したりするのではなく、様々な取り組みを組み合わせ、なおかつ継続的に実施していくことが重要です。

 インターンシップにより林業への就業意識を喚起し、若年の新規従事者を採用し、「緑の雇用」で育成するという流れが今後理想的な従事者の安定的確保育成の在り方になってくるのではと考えています。

 

 今回で森林管理の担い手確保に関するシリーズは終了です。次回以降はまた別のテーマで連載していこうと思います。

 

参考文献

筆者の卒業論文(2016年度提出)

森林管理と昆虫ーカミキリムシ類(1)

こんにちは。意識低い森林学徒です。今回の記事は、Aが担当します。専門は生態系管理学・森林動物学で、河川や森林に生息する生物の生態に注目しながら、生態系をかしこく管理するための方策を検討しています。

今回は「森林管理と昆虫」と題し、森林害虫の代表格であるカミキリムシ類について書いてみたいと思います。筆者はいわゆる昆虫博士ではないので、間違っている点も多々あるかと思います。そのあたりは、ぜひご指摘いただければと思います。第1回目は、カミキリムシ類全体の概説です。

(1)     カミキリムシ類概説

カミキリムシとは、主としてコウチュウ目(Coleoptera)・カミキリムシ科(Cerambycidae)に分類される甲虫の総称です。世界のカミキリムシの科及び亜科の分類は研究者により異なるため諸説ありますが、Svacha(1997)*の分類によれば、カミキリムシ科(Cerambycidae)、ホソカミキリムシ科(Disteniidae)、ケラモドカミキリムシ科(Hypocephalidae)、タマムシカミキリムシ科(Oxypeltidae)、ムカシカミキリムシ科(Vesperidae)の計5科に分けられます。このうち、本稿で扱うのはカミキリムシ科です。なお、本稿の内容は大林・新里(2007)による解説に基づきます。

1.1    系統と分類

まずは、カミキリムシ科内の系統関係について見てみましょう。Svacha and Danilevsky(1987)**によれば、カミキリムシ科にはニセクワガタカミキリ亜科(Parandrinae)、ノコギリカミキリ亜科(Prioninae)、ニセハナカミキリ亜科(Apatophyseinae)、カミキリ亜科(Cerambycinae)、ハナカミキリ亜科(Lepturinae)、ホソコバネカミキリ亜科(Necydalinae)、フトカミキリ亜科(Lamiinae)の8つの亜科が属します。亜科同士の系統関係については、Svacha(1997)が幼虫もしくは成虫が共有する派生形質から推定したものや(Fig.1)、Wang and Chiang(1991)***が8亜科中5亜科について行った推定(Fig.2)などがあります。

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Fig.1:Svacha(1997)によるカミキリムシにおける系統関係の推定(大林・新里 2007より)

このうちWang and Chiang(1991)は、フトカミキリ亜科、カミキリ亜科、ノコギリカミキリ亜科の3亜科は南極大陸を除く全ての主要大陸に分布しますが、ハナカミキリ亜科とクロカミキリ亜科はオーストラリア大陸に分布しないことから、前者の起源がより古いものと考えました。さらに、前者の3亜科はいずれも食性範囲が広く、裸子植物双子葉植物被子植物を寄主とするのに対して、後者の2亜科は被子植物を寄主としないことから、カミキリ科全体としては裸子植物を寄主として進化し、そこからいくつかの亜科において被子植物へと寄主の対象範囲が広がったと推定しました。また、ノコギリカミキリ亜科は幼虫における消化管や成虫中胸における発音版の形態特殊性が高いことも知られています。以上のような考察から、Fig.2のような系統関係が推定されました。

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Fig.2:Wang and Chiang(1991)によるカミキリムシ5亜科における系統関係の推定(大林・新里 2007より)

なお、上記の亜科のうち特に大きいグループはカミキリ亜科およびフトカミキリ亜科です。特にフトカミキリ亜科は、カミキリムシ最大の亜科であり、過半数の種を含んでいます。

1.2    形態

1.2.1      成虫

次に、形態です。カミキリムシの成虫は、通常11節(まれに12節)の長い触角が特徴的です(Fig.3)。ただし、数多くの亜科を含む膨大なグループであるため、その形態において共通の特徴を見い出すには例外が多く難しいと言われています。

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Fig.3:カミキリムシ成虫(ヨツスジハナカミキリ). (大林・新里 2007)

1.2.2      幼虫

カミキリムシ類の幼虫は細長いイモムシ型であり、特にホソカミキリ科ではその傾向が顕著です。体は通常は円筒型ですが、ハイイロハナカミキリ属など樹皮化で生活する種の一部では扁平です。幅は胸部で最も広く、尾端に向かって細くなります。体色は白色から少し黄色みを帯びるものまであり、頭部、前胸の一部、気門などを除けば表皮は全体的に柔らかいです。腹部の少なくとも背面には、寄主植物内で移動するための歩行隆起があります(Fig.4)。

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Fig.4:カミキリムシ幼虫(大林・新里 2007).

1.3    生態

1.3.1      生活環

続いては生態です。カミキリムシは、卵・幼虫・蛹・成虫という完全変態の生活環を持ちます。卵期間は短く、通常1~2週間で孵化します。それに対して幼虫期間は長く、通常は6~9カ月を要し、長いものでは数年に及ぶものもあります。最も長い幼虫期間において越冬を行う例が多いですが(e.g. マツノマダラカミキリ)、一方で一部の種においては、蛹室内で羽化した成虫がその中にとどまる形で越冬するものも存在します。幼虫越冬するものの多くは、中齢から終齢幼虫の状態で発育が中断された形をとります。

1.3.2      幼虫の食性

では、カミキリムシは幼虫期にどのようなものを食べているのでしょうか。カミキリムシの幼虫は食材性の穿孔性昆虫であり、主に内樹皮や維管束形成層を摂食します。このような食材性の穿孔性昆虫は一般的に、健全木を食餌対象とする一次性昆虫と、衰弱木あるいは枯死木を食餌対象とする二次性昆虫に分けられますが、カミキリムシの多くは二次性です。これは、健全木は栄養価が高い一方で、防御反応として樹脂を分泌するとともに壊れた細胞の修復を行うため、多くのカミキリムシが生存できないためであると考えられています。また、幼虫が食餌対象とする寄主植物の種類については、カミキリムシの種ごとに嗜好性があることが知られています。一般に、植食性昆虫類の嗜好性は単食性、狭食性、広食性の3つに分類されますが、カミキリムシではおよそ3割の種において特定の植物グループ(種、属、科など)に対する嗜好性があるようです。

1.3.3      後食

蛹から羽化した成虫はそれ以上成長することはなく、一般に成虫の寿命は幼虫期に比べて非常に短いです。しかし、成虫期においても、延命および生殖器官の成熟のために摂食行動を行います(例外はあります)。これはとくに“後食(こうしょく)”と呼ばれ、幼虫期の摂食とは区別されます。後食の対象となるのは通常植物質であり、花や樹液、樹皮や葉などが挙げられます。

1.3.4      交尾行動と産卵習性

多くの昆虫においては、野外で雌雄が出会うためにメス(オスの場合もある)が性フェロモンを放出して異性を誘引することが知られています。カミキリムシにおいても、スギノアカネトラカミキリなど一部の種において、オスが性フェロモンを放出しメスを誘引する例が報告されています(Iwabuchi 1982)。また、産卵や後食のために利用する植物が放出する化学物質を感知し、それにより集合する例もあります。カミキリムシの産卵は、カミキリ亜科、ノコギリカミキリ亜科、ハナカミキリ亜科などでは、メスが単に寄主植物の樹皮の裂け目やすき間に産卵管を挿入して行う方法が一般的です。一方でフトカミキリ亜科の多くの種においては、卵の保護や付加した幼虫の穿孔を助ける目的で、独自の産卵加工を行うことが確認されています。例えば、植物体の表面に咬み傷などの加工を施し、そこに産卵する例が知られています。

 

 

いかがでしたでしょうか。専門的な話が多くなってしまい、読みにくいかもしれません。。。次回は、カミキリムシの中でも特に森林害虫として名高い”とある”カミキリムシを取り上げて、その生態を紹介したいと思います。ではまた!

 

引用文献

Iwabuchi, K. (1982). Mating Behavior of Xylotrechus pyrrhoderus BATES (Coleoptera : Cerambycidae) I. Behavioral Sequences and Existence of the Male Sex Pheromone. Applied Entomology and Zoology. 17 (4):494-500.

大林延夫・新里達也編. (2007). 日本産カミキリムシ. 東海大学出版会. 神奈川. 818pp.

*,**,***:Svacha(1997)、Svacha and Danilevsky(1987)、Wang and Chiang(1991)は、いずれも原典が確認ないため、大林・新里(2007)からの孫引きです。

森林管理の担い手確保ー「緑の雇用」事業の登場ー


みなさんこんばんは。意識低い森林学徒です。昨日に引き続き、本日もTが執筆を担当します。よろしくお願いします。

 昨日の記事において、森林を適切に管理することが土砂災害の防止に一役買っていること、また、森林管理の主役である林業従事者の減少と高齢化が課題となっていること、そして最近導入されたとある政策により、林業担い手に関する問題に改善の兆しが見られることを説明しました。今日の記事では、私の卒業論文の成果を用いながら、この制度の政策的背景や概要について述べたいと思います。

 

 前回の記事で述べた通り、林業従事者の減少と高齢化の進行は林業における大きな課題であり、これまで様々な対策が講じられてきましたが、抜本的な解決には至ってきませんでした。しかし、1990年代以降はこのような課題が改善されつつあります。若年者率は1990年度を底に上昇に転じており、高齢化率は2000年度をピークに低下し始めています。従事者数全体を見ても、近年は従事者数減少のペースが緩み、下げ止まり傾向にあることがうかがえます。

 従事者の減少に歯止めがかかりつつあり、また、若年者率が増加している背景として、1990年代以降の林業労働政策(私の記事において、林業事業体や林業従事者に関する政策制度を「林業労働政策」と呼称します)の整備があります。林業はこれまで他産業と比較して就業条件や労働環境の点で魅力に欠けていました。したがって、労働者が定着しにくく、新規参入も少ないという構造的問題を抱えていました。1990年代以降に整備された政策は、このような林業の劣悪な労働条件や労働環境を改善することによって既存の従事者の定着と若年層の新規就業を促す目的がありました。

 労働環境の改善に向けた取り組みとしては、1993年の「労働基準法」の改正が挙げられます。「林業における労働時間は、林業労働が天候などの自然条件に著しく左右されることなどから、休憩および休日ともに、労働基準法による規制の対象外とされて」(全国森林組合連合会 2016)きました。しかし、労働基準法の改正を受け、1994年4月1日から林業に対し、労働基準法の規定が全面的に適用されることとなりました。

 また、1996年には「林業労働力の確保の促進に関する法律」が制定されました。同法の目的は、「林業労働力の確保を推進するため、事業主が一体的に行う雇用管理の改善及び事業の合理化を推進するための措置並びに新たに林業に就業しようとする者の就業の円滑化のための措置を講じ、もって林業の健全な発展と林業労働者の雇用の安定に寄与すること」(林業労働力の確保の促進に関する法律第一条)です。「この法律では、事業主は雇用管理の改善と事業の合理化を一体的に実施する計画を策定し、都道府県知事の認定を受けることができ、認定された事業体は各県に設立される林業労働力確保支援センターを通し、林野庁労働省の支援措置を受けることができ」(堀 2012)ます。主な支援策として、「研修や事前調査など就業の準備に係る資金の無利子貸付、林業労働者の福利厚生施設を導入する場合の林業改善資金の償還期間の延長(通常10年のところを15年へ)、林業労働者の委託募集の特例措置、国有林野事業における認定事業主への計画的・安定的な事業委託への配慮など」(堀 2012)がありました。労確法に基づいた様々な取り組みによって、林業事業体は若い就業者の採用を行いやすくなりました。
 上記のような林業における労働条件改善事業の一環として、労働省(現厚生労働省)は「1993年度から林野庁から関係行政機関と連携して、林業事業体における雇用管理の改善を図るために、『林業雇用改善促進事業』をはじめとした施策を実施し」(堀 2012)ました。
 このように、労働基準法の改正や労確法の制定によって林業における労働条件の改善が進んでいきました。労働条件の改善は、既存の労働者の定着や新たな従事者、特に若年従事者の就業に一定の役割を果たしてきました。


 林業労働力の確保に向けた取り組みが続けられる中で、2003年度から「緑の雇用」がスタートした。「『緑の雇用』は新規に採用した労働者を、基本に忠実な技術者として早期に教育する制度」(興梠 2015)であり、林業事業体の支援と従事者への教育という二本柱によって、新規従事者の定着及び育成を支える制度です。
 「緑の雇用」は当初、失業対策の意味合いが強いものでした。「国の失業対策(厚労省・緊急地域雇用創出特別交付金事業)で補助対象となった人々を、『緑の雇用』によって林業に採用し、1年間、林業の基本技術をOJTとOff-JTによって学んでもらう」(興梠 2015)という内容でした。2006年度からは、「国の失業対策との関係はなくなり、地球温暖化防止のための森林整備を担う人材育成という目的に変わ」(興梠 2015)りました。研修の内容として、1年目の基本研修に加え、2年目研修(かかり木処理や風倒木処理のような高度な伐採技術を身に付ける技術高度化研修)と3年目研修(低コスト木材生産システムを学ぶ森林施業効率化研修)も登場しました。さらに、2011度以降からは、「森林・林業再生プランを受けて、国産材の安定供給に必要な間伐や道づくり等を効率的に行える現場技能者を段階的かつ体系的に育成すること」(堀 2012)が目的となり、「緑の雇用」は、「林業労働者のキャリアアップを支える研修に体系化され」(興梠 2015)ました。
 「緑の雇用」は新規就業者の支える制度であると同時に、「緑の雇用」を利用する事業体にとっても有益な制度です。「緑の雇用」を利用して新たに労働者を採用した事業体は、補助金が得られたり、従事者のための安全防具を得られたりするなどのメリットがあります。

 

 「緑の雇用」が実際にどれほどの効果があったかは、以下のグラフを見ていただければ理解できるかと思います。グラフは、「平成28年版 森林・林業白書」をもとに筆者が作成しました。f:id:HU_forestry:20180414222407p:plain

 「緑の雇用」の利用により、平均して年間1.000人の新規従事者の確保が実現できていることが見て取れます。

 上で述べた通り、「緑の雇用」それ自体は、①新たに雇用した林業従事者を講義やOJTを通して育成し、②新たに従事者を雇用した事業体に対し補助金等を支援する制度です。したがって、「緑の雇用」の利用をスタートするためには、新たな従事者を見つけ、雇用することが必要不可欠となります。「緑の雇用」と新たな担い手の確保はどのような関連があるのでしょうか。この点について、次回述べたいと思います。

 

参考文献

林野庁(2016),「林業の動向」,『平成27年度 森林及び林業の動向』, pp.86-103.

全国森林組合連合会(2016),「労働時間・休日・休暇」,『平成28年度版 林業雇用管理改善のしおり』, pp.14-18.

堀 靖人(2012),「林業労働」,『改訂 現代森林政策学』, pp.239-253

興梠 克久(2015), 全国森林組合連合会監修, 『「緑の雇用」のすべて』, 日本林業調査会.

筆者の卒業論文(2016年度提出).

森林管理の担い手は確保できるのか

みなさん初めまして。意識低い森林学徒です。大学院生という立場で森林科学及び森林・林業・木材産業について勉強する中で感じたことや考えたことをアウトプットしたいと考えブログを開設するに至りました。ブログを通して考えを発信する過程で、文章を書く練習もできればなあと考えています。

 本日は意識低い森林学徒3名のうち、Tが執筆を担当します。私の専門は森林政策学です。駄文・凡文をお許しください。今回は、「土砂災害と森林の関係」と「森林管理の担い手確保手段はあるか」をテーマに文章を書いてみます。

1.土砂災害と森林の関係

 一昨日の未明、大分県中津市において大規模な山崩れが発生し、現場付近の住民の方が犠牲になりました。報道を見聞きして、再びこのような悲劇が起こらないようにする方法はないのだろうかと考えを巡らせている方も多いかと思います。森林科学を学ぶ私としては、今回の土砂災害は、日本における森林管理の在り方について改めて考えるきっかけとなりました。というのも、森林は土砂災害を防止する役割を担っているからです。今回の山崩れの原因や詳細等についてはまだ調査中であるため断定はできませんが、森林が適切に管理されていれば山崩れは起こっていなかった可能性もあります。

 ところでみなさんは「治山」や「治水」という言葉をご存知でしょうか。三省堂大辞林の解説によると、治山とは、植林などにより山を整備し、山から災害の原因を除くこと、治水とは、河川の氾濫を防いだり、水運・灌漑の便をよくしたりすることとなっています。「急峻な地形で降水量が多く、それが一時期に集中する日本では、洪水、渇水、山崩れ、土石流、地すべりなどの自然災害が起きやす」く、また、「世界中の火山の約1割が日本列島に分布し、火山災害の発生も多い」です。さらに、「日本列島はユーラシアプレートに太平洋プレートが潜り込む地点に位置することから、大規模な地震災害にも見舞われて」(矢部 2012)います。したがって、「治山」や「治水」は「これら自然災害から国民の生命、財産を守る国土保全政策の枢要な部分を占めてい」(矢部 2012)ます。

 「治山」や「治水」は河川法、砂防法、森林法等に基づき実施されています。中でも森林法及び地すべり等防止法の規定に基づき実施される「治山事業」は、森林の維持造成を通じて、山地災害から国民の生命・財産を保全するとともに、水源の涵養、生活環境の保全・形成等を図る重要な国土保全政策の1つとされています。

 治山事業はさらに「保安施設事業」と「地すべり防止工事に関する事業」に細分化されています。保安施設事業は、保安林の指定目的を達成するため、国又は都道府県が行う森林の造成事業又は森林の造成若しくは維持に必要な事業、地すべり防止工事に関する事業は、林野庁が所管する地すべり防止区域における地すべり防止工事に関する事業と定義されています。

 このように、森林は「保安林」を中心に、土砂災害防止等の国土保全に重要な役割を果たしているのです。保安林についての詳述は省略しますが、保安林は日本の森林面積の約半分を占めています。そのうちの6割が国有林です。

2.森林管理の担い手を確保する手段はあるか

 では、この広大な森林を誰が造成し、誰が管理しているのでしょうか。読者の皆様の多くは林業という営みの中で下草刈りや枝打ち、間伐等の作業が行われていることはなんとなくご存知かとは思います。しかしながら実際にそのような作業をしたことがあるという人は少ないと思います。下草刈りや枝打ち、間伐等の作業は森林を適切に管理する上で欠かせないプロセスです。

 日本においては、森林管理は「林業事業体」が主体となって実施されています。林業事業体とは、森林組合林業会社等、実際に山林現場において植林や伐採、搬出等の作業を行う事業者を指しています。一般の企業において社員がいなければビジネスが回らないように、林業事業体においても、実際に現場で作業する方(以下、私の記事においてはこのような方々を「林業従事者」や「林業担い手」と呼称します)がいなければ森林管理が継続できません。林業の担い手がいなくなれば、日本の森林管理が、ひいては治山事業の継続が危ぶまれるのは理解していただけるかと思います。

 これを踏まえ、現在、担い手不足と高齢化の進行が林業における慢性的な課題となっていると聞いたとき皆様は何を感じるでしょうか。何か解決策はないのだろうかと考える方が多いかと思います。f:id:HU_forestry:20180414164724p:plain

 上の図をご覧ください。こちらは林業従事者数の推移をグラフ化したものです。「平成28年版 森林・林業白書」より、筆者が作成しました。林業従事者は年々低下しているという点、林業従事者においても少子高齢化が進行しているという点がまずは目につくかと思います。しかしながら、グラフをよく見てみると、従事者数の減少が下げ止まり傾向にあること、高齢化率が2000年度をピークに減少に転じていること、若年者率が1990年度を底に増加していることも見て取れます。従事者の確保や少子高齢化に一石を投じる、何か有効な対策があったのかもしれません。

 次回以降、近年関係者から注目を集め、一定の効果が上がっている政策制度について説明しようと思います。お付き合いいただきありがとうございました。

 

参考文献

矢部 三雄(2012).「第8章 保安林、治山・治水政策」, 『改訂 現代森林政策学』. pp.137-149.