意識低い大学院生、森林を考える

某大学森林科学科の同期4人で運営する共同ブログです。森林・林業の魅力を発信し、最新の知見も紹介します。現在、大学院修士課程に在学中。

人類が土地を使い始めたその時に:森林から農地への転換に着目して

窓の外をふと見てみたときに、まっさきに見えるものは何だろうか。
私の研究室から外を見てみると、札幌の街並みや大学の建物が見える。
皆さんが見ている景色にも、必ずや人工物が映りこんでいるはずだ。

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Fig.1 大学から見える景色

人類は氷床に覆われていない、地球上の陸地の75%を利用し、改変してきた。今となっては、人類の手が加わっていない場所を探す方が難しいのだ。農地開拓により、食べ物に困ることは殆どなく、そして都市開発により豊かな生活を享受できている。

人類が豊かな生活を享受できるようになった一方で、土地利用により排他された生物もいただろう。人類が土地利用を開始したことにより、そこに住んでいた生物たちはどんな影響を受けたのだろうか...?

今回のブログではイギリスを例にこの答えを探ってみよう。

現在のイギリスでは、その国土のおよそ7割を農地が占める。しかし、農地に転換される前までは、森林や湿原が広がっていたことが知られている。考古学的な資料を記した文献 (Yalden & Albarella 2009; The History of British Birds)を解き明かしながら、森林が農地に転換された時代の、鳥類相の変遷をまとめてみよう。

時代は新石器時代にまで遡る。今から5,200年ほど前に、穀物と家畜化されたヤギやヒツジを伴って、農耕民族がイギリスに移入してきた。この頃からイギリス人は、家畜を飼養するための牧草地と、穀物を栽培するための土地を開拓するようになった。つまりイギリスでは、人類は5,200年ほど前から森林を切り開いて農地に転換、つまり土地利用を開始したのだ。

これまでに広がっていた森林を農地にしたのだから、森林性の鳥類ではなく開放地性の鳥類が優占するようになったことが予想される。しかしながら、この時代の遺跡から出土する鳥類相に着目してみると、森林性鳥類の優占が示唆されるのだ。例えばDowel Holeという場所では、ヨーロッパコマドリやシロビタイジョウビタキ(開放地性)ではなく、ヨーロッパシジュウカラ(森林性)が最も優占して出土した。ほかの地点でも、ヨーロッパカヤクグリ、シメ、ウソ、アオカワラヒワ、モリフクロウ、オオタカなど森林に生息するような鳥類が遺跡から出土している。

様々な地点の遺跡から、森林性鳥類が優占して出土していることを踏まえると、新石器時代のイギリス人たちは、景観を劇的に改変するほど集約的には農耕をしていなかったことが推察される。

しかしながら、青銅器時代(およそ4,000年前)に入ると鳥類相は大きく変化する。様々な遺跡から、チョウゲンボウ、ハト、ミヤマガラス、ムナグロ、ヨーロッパコマドリ、ツバメ、ショウドウツバメ、ヒバリなどの開放地性鳥類が優占して出土するようになるのだ。

青銅器時代以前の遺跡からは、ムナグロやタゲリは出土していなかったが、この時代からは多くの遺跡から出土するようになる。著者らは、この頃から、タゲリやムナグロがこの地域の開放環境で越冬するようになったのではないか、つまり、彼らの越冬に適した環境が形成されたのではないかと推測している。

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Fig 2. 農地を利用するムナグロ

青銅器時代に入ると、どうやらイギリス人たちはより積極的に森林を農地に転換し、そこに生息していた鳥類たちも、その影響を受けて変遷していったようだ。

まとめに移る。

イギリスの遺跡からは、農地開拓が進むにつれて森林性鳥類が姿を消し、開放地性鳥類が台頭するようになったことが示唆された。ただし、農耕開始直後はその影響はわずかだったようだ。農耕開始1,000年後くらいから、イギリスでは鳥類相を変化させるほどの影響を与えるようになったらしい。

次回以降は、湿原から農地への転換、そして日本の歴史とイギリスの歴史の比較を試みる。

 

森林に関する国際的な学生NPO団体

 お久しぶりです。だいぶ日が開いてしまいましたが気合いを入れて更新していきます。今回はゴールデンウィークに実家に帰省して英気を養い、若干テンションが上がっているTが担当します。

 

 今回は少しテイストを変えて、私が所属しているNPO団体の紹介をしたいと思います。International Forestry Students’ Association: IFSAという団体です。

 

1.IFSAってどんな団体?

 IFSAは世界中の森林科学専攻の学生が運営するNPO団体です。森林科学を専攻する学生に対し、学習と交流の機会を提供することを目的に日々活動しています。学生同士の交流イベントを開催したり、国際的な学術会議への参加を行っています。

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1-1 世界中の学生が運営するNPO

 IFSAの運営には10,000人を超える学生が関わっています。イベント企画運営、スポンサー開拓、広報、資金管理等、役割を分担しながら巨大な組織を運営しています。本部はドイツに置かれており、40以上の国や地域にメンバーが散らばっています。メンバーは各大学でIFSAの支部組織(Local Committees: LC)を組織し、運営しています。基本的に各大学に1つのLCが置かれています。日本では北海道大学京都大学にLCが設置されています。私はIFSAのLCの代表を現在務めております。

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1-2 学習と交流機会の提供が目的

 IFSAは世界中の森林科学専攻の学生を世界の同朋と繋ぎ、森林環境系団体との関りを持ち、森林及び環境に関する政策決定に関わるために活動を行っています。IFSAはvisionとして、「我々の森林にとって持続可能な未来を実現するために知識や理解を深め、また、若者の声を国際的な森林環境政策決定に届けるために森林科学を専攻する学生が国境を越えて連携する」ことを掲げています。また、missionとして、次の4つを掲げています。(1)全ての森林科学専攻の学生の利益のため、組織の継続を確保すること。(2)高等教育の改善に貢献し、学校外教育を促進すること。(3)森林科学を専攻する学生の視野を広げ、国際的な意思決定プロセスにおいて若者を代表すること。(4)IFSAの要求を満たし得る革新的で持続可能な財務管理計画を立案すること。

 また、IFSAメンバーを国際的な森林環境団体と結ぶことを目的としています。例えば、IFSAはInternational Union for Forest Resarch Organizations: IUFRO(国際森林研究機関連合)、Center for International Forestry Researach: CIFOR(国際林業研究センター)、Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO(国連食糧農業機関)等、大規模で力のある国際団体をパートナーとして抱えています。

 さらに、学生の声を国際的な政策決定に反映させることを目的としています。IUFROやCIFORやFAO等の団体がパートナーとなっているため、彼らの主催する学術会議や国際学会への参加が可能となっています。例えばIFSAはIUFROと共に、森林教育の分野で共同研究や啓蒙活動を行っています。Joint IUFRO-IFSA Task Force on Forest Educationという名で積極的な活動を展開しています。

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1-3 イベントや学術会議を開催

 上記のパートナーと共同でイベントを開催することに加えて、IFSA独自のイベントも企画しています。こちらは学生同士の交流を主としたもので、Internatinal Forestry Students’ Symposium: IFSSと呼ばれています。毎年各大学が持ち回りで主催し、2週間に渡り世界中のLCメンバーが集うIFSAの一大イベントです。残念ながら私は日程が合わずこれまで参加したことはありませんが、ぜひ一度参加してみたいものです。

 また、IFSS以外にも地域レベルで学生が集まるイベントもあります。私は日本の大学に通っているので、IFSAにおいてはアジア太平洋地域に区分されています。アジア太平洋地域のみの学生が集まり、IFSSのように交流や学習を行うイベントがあり、こちらはAsia-Pacific Regional Meeting: APRMと呼ばれています。私はこれまでに2回さんかしたことがあります。IFSSと同様、年に1回持ち回りで開催しており、2016年は京大が主催、2017年はインドネシア・ボゴール農科大学が主催しました。そして再来週から2018年のAPRMが始まり、今年はフィリピン大学ノスバノス校が主催です。今年は私はスケジュールの関係で参加できませんが、私たちの支部に所属する4年生の子が参加するので、報告を楽しみにしています。

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 今日はこのへんで終わりにします。ぜひ興味があるときにIFSAについて調べてみてください。それでは。

参考文献

IFSA HP: http://www.ifsa.net/

Joint IUFRO-IFSA Task Force on Forest Education: https://www.iufro.org/science/task-forces/forest-education/

画像:本日私が2年生向けにプレゼンしたIFSAの紹介資料から抜粋

森林管理と昆虫ーカミキリムシ類(2)

 こんにちは。意識低い森林学徒です。今日の記事は,花粉症シーズンが終わり元気になりつつあるAが担当します。前回の記事では,カミキリムシ類について,その基礎的な系統や生態のお話をさせていただきました。今回はその続きになります!

(2)日本最大の病虫害:マツ枯れについて

みなさんは「森林に害を与える野生動物」と聞いて,どんな動物を思い浮かべるでしょうか。昨今全国的に個体数の増加が懸念されている,シカでしょうか?それとも,どでかいクマでしょうか?

「森林管理と昆虫」と題してお送りしているこの記事で、記念すべき第1回目にカミキリムシ類を取り挙げたのには,もちろん理由があります。そうです,被害材積ナンバーワンは,マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)というカミキリムシがその一因となる病気「マツ枯れ」なのです。例えば,H27年度の統計ではマツ枯れの被害材積(=木の体積のこと)は48万㎥です。これに対して,獣害で被害ナンバーワンのシカはわずか7000haほどです。両者の単位が異なるため単純な比較はできませんが,日本の人工林面積が約1030万ha,その蓄積は3040万㎥であることを考えると,マツ枯れの被害面積は単純計算でおよそ16.3万haと推定できます。このようにマツ枯れは,シカを中心とした獣害の被害量を大きく上回ります。

 

ここで,前者の被害量が材積なのに対し,後者の被害量が面積で表されているのにはおそらく以下のような理由があります。いわゆる動物による被害の中でも,マツ枯れなどの虫害はカミキリムシやキクイムシが原因のため,稚樹(=若い樹)ではなくそれなりのサイズに成長した林分に発生します。一方で,獣害はかつてノネズミやノウサギによる被害が多く、その主たる対象は植栽したばかりの稚樹を食べられてしまうというものでした(1970年代には,ノネズミとノウサギ合わせて7万ha以上の被害面積でした)。それゆえ,両者の算出方法が異なると考えられます。

 

というわけで今回は,日本の林業における森林病害の代名詞である病気「マツ枯れ」について,紹介したいと思います。

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Fig.1:小豆島におけるマツ枯れ(以下リンクより引用)

http://www.ffpri-skk.affrc.go.jp/matu/qmatu_page1.html

2.1    “マツ枯れ”ってなに?

2.1.1      マツ枯れってどんな病気?

”マツ枯れ”とは,アカマツクロマツを中心としたマツ類が感染する病気で,正式名称は「マツ材線虫病」といいます。実はその主因は,カミキリムシではなくセンチュウです。マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)という大きさ1mmほどの小さなセンチュウは,北米原産であり,1900年代初頭に日本に持ち込まれたとされています(2.1.2参照)。このセンチュウは,マツの樹体内に侵入するとマツに水分ストレスを生じさせ,マツを衰弱させてしまいます。そして,このセンチュウ類を媒介してしまうのが,もともと日本にいたマツノマダラカミキリ,というわけです(Fig.2,3)。実際に,北米原産であるストローブマツやテーダマツといった種類は,マツノザイセンチュウに対して抵抗性を持っています。一方で,日本産であるアカマツクロマツリュウキュウマツなどは全て感受性です。

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Fig.2:マツノザイセンチュウ

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Fig.3:マツノマダラカミキリのオスとメス

2.1.2      マツ枯れの歴史と現在

マツ枯れの被害は1905年ごろに長崎県で初めて発生し,その後全国に広がりました。このことからも,恐らく北米からの船によってセンチュウが日本に侵入してしまったと考えられます。その被害量は1979年度(約243万m3)をピークに減少傾向にあり,2015年度の被害材積量はピーク時の5分の1程度(約48万m3)まで減少しています(Fig.4)。しかし,依然として日本国内においては最大の病虫害であり,対策を引き続き行っていく必要があるといえます。

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Fig.4:マツ枯れの被害材積の推移(H29年度森林・林業白書より)

2.2    “マツ枯れ”が生じる仕組みとその対策

2.2.1      マツノマダラカミキリの基礎知識

では,センチュウとカミキリムシによって,どのようにマツ枯れは引き起こされるのでしょうか。まずは,マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus,以下マダラ)について紹介しましょう。

本種は,カミキリ亜科ヒゲナガカミキリ属に属し,体長は14~27mmほど、触角は雌雄ともに赤褐色でで、第3~9節の基部は白色がかります(Fig.3)。上翅は赤褐色の縦縞の間に濃褐色と灰白色の微網が交互に縦に並び,複雑な模様を呈します。中国・韓国・台湾・ベトナムラオスなどに広く分布し,日本国内においては青森県北部と北海道を除く地域に分布しています。成虫の材からの脱出は関東では5~7月ごろで,メス成虫は衰弱したマツの樹皮に咬み痕をつけて1個ずつ産卵します。その後孵化した幼虫は材内に穿孔し(=穴をあけて入り込むこと),蛹室を作ってその中で越冬します。通常は年1化ですが,東北地方などでは2年1化の場合もあります。

彼らはアカマツクロマツを主に摂食し,特に衰弱木や新鮮な枯死木を好み,その幹や太い枝を食害します。もともとアカマツクロマツとマダラが日本において共存してきたように,マダラ幼虫の穿孔だけでは,マツ類の枯死を招くことはありません。林業が盛んでなかった時代には,現在ほどマダラが利用できるマツの枯死木が無かったため,被害が少なかったとされています。既に述べたように,マダラはマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus,以下,センチュウ)を媒介することによって,枯死の間接的原因となってしまうのです。

2.2.2      マツノザイセンチュウはうまくカミキリムシを利用する

マツ枯れは,以下の図のような仕組みで生じます(Fig.5)。まず,マダラ成虫が寄主であるマツ科樹木から脱出します(図中1)。このとき,彼らはまだ性成熟をしていません。脱出後に健全な寄主の新梢や小枝の樹皮を食べることで成熟しますが(※これを後食といいました!前回の記事参照です),この際にマダラ成虫の気管内に入り込んでいたセンチュウが,後食痕から健全木内に入りこむのです(図中2)。これによりマツの樹勢が弱まると,樹脂の発生が抑えられ,成熟したマダラ成虫が産卵できる格好の場が誕生します(図中3,4)。

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Fig.5:マツ枯れの仕組み(森林研究・整備機構資料より).

 

このとき,センチュウがマツの樹勢を弱める原因は次の通りです。マツの樹体内に入り込んだセンチュウは,主に柔細胞と呼ばれる細胞から栄養を摂取します。柔細胞の変性や壊死により,樹体内で水分の運搬を担う道管内にある樹液の表面張力が低下し,キャビテーションと呼ばれる現象が生じます(※圧力の低下により道管内に気泡が生じ,水分を吸い上げられなくなってしまいます。穴の開いたストローだと,力いっぱい吸ってもうまく飲み物を吸い上げられないのと似ています)。これによりマツは水分を確保しにくくなり,樹勢が弱まってしまうのです。

 

そして、樹体内で増殖し広がったセンチュウが分散型3期幼虫というステージに入ると,マダラ幼虫が穿孔した孔道付近に集まるようになります(図中7,8)。そして,マダラが羽化する時期になると,センチュウは脱皮し分散型4期幼虫と呼ばれる状態となり、羽化したばかりのマダラ成虫の気門から気管内に入り込んで広がっていく,というわけです(Fig.6)。Fig.6はマダラの気管内にびっしりと詰まったセンチュウです。私もこの画像を見たときはさすがにぞっとしました。。。

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Fig.6:マダラの気管内に入り込んだセンチュウ.

このように,センチュウとマツノマダラカミキリは一般に相利共生の関係にあります(マダラはセンチュウを運搬しその拡散に寄与する,一方でセンチュウはマツの樹勢を弱めマダラの産卵場所を提供する)。ただし,大量のセンチュウを保持した場合には,マダラの寿命が短くなるなどのコストがあります。

一方で,マツノザイセンチュウの原産地である北米などでは,既に述べたようにマツ類がセンチュウに対して抵抗性を持っています。すると,センチュウにより樹勢が衰えることはないため,センチュウを媒介したとしてもカミキリムシにとっては自らの産卵場所が増えるわけではなく,利益を得ることができません。従って,北米では両者は片利共生的な関係にあるといえます。実際,マツの丸太上にセンチュウとマダラ幼虫を人為的に摂取した実験においては,センチュウが存在するだけでは,マダラ成虫の体重や発育期間に影響がないことが示されています(富樫 2016)。

2.2.3      マツ枯れの対策

ここまで述べてきたように,マツ枯れはカミキリムシとセンチュウの見事なコンビネーションにより生じます。もちろん,我々の側もこれに対して何らかの対策を行わなければなりません。一番の対策は,被害木の伐倒薫蒸や薬剤の散布になります。また事前対策としては,マツ林周辺の感染源を排除するために,マツ林周辺の林分を広葉樹林へ樹転換する、激害地において生存した個体から抵抗性のある苗木を生産し(いわゆる育種),それを造林に用いる,などが挙げられます。

参考文献

後ほど整理します!

 

いかがでしたでしょうか。日本全国で猛威をふるったマツ枯れは,今も根絶されたわけではありません。地球規模の気候変動により気温上昇や異常気象の多発がますます進むことになれば,マツ枯れについても今までになかった新たな問題が生じるかもしれません。例えば,現在では被害のない北海道で広まる可能性もあるわけです。今後も,事前対策と事後対策を組み合わせ,その被害を最小限に抑えていく必要があります。

実は,森林に被害を与えるカミキリムシはマダラだけではありません。次回は,最近(といっても少し前ですが)NHKのニュースにも取り上げられた”はやり”のカミキリをお届けします。そして次々回(最終回)では,これまでの3回を踏まえて森林管理の方策について検討してみたいと思います。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!

「緑の雇用」を新規担い手の確保に生かす

 お久しぶりです。今回の記事は、Tが担当します。諸事情によりブログの更新がだいぶ空いてしまいましたが、気を取り直して再開していきます。

 

 前回の記事では、近年の林業担い手の絶対数減少及び高齢化という問題に関して、「緑の雇用」という制度が考案され、効果を発揮してきたことを述べました。「緑の雇用」それ自体は、①新たに雇用した林業従事者を講義やOJTを通して育成し、②新たに従事者を雇用した事業体に対し補助金等を支援する制度です。したがって、「緑の雇用」の利用をスタートするためには、新たな従事者を見つけ、雇用することが必要不可欠となります。「緑の雇用」の効果的な活用を図るためにも、新規従事者の安定的な確保体制が構築されていることが必要不可欠です。

 新規従事者を安定的に確保する手段として近年注目を集めるのがインターンシップの受け入れです。インターンシップを通して林業に対する理解及び興味関心が喚起され、生徒が将来的に林業に就業する可能性が高まることがインターンシップに期待されています。高校生や大学生のインターンシップ受け入れの実施を継続的に行うことにより、高校・大学と事業体との間で良好な関係が構築され、安定的な従事者確保につながる可能性があります。

 しかしながら、インターンシップはあくまで林業に対する理解・興味・関心の喚起につながるものであり、それ自体で若年の従事者を確保することはできません。インターンシップ単独だけではなく、高校を訪問し就業相談会・就業説明会を行うなど、従事者確保に向けた他の取り組みと併せて行っていく必要があります。また、インターンシップ受け入れを1年だけ行うのではなく、継続的に実施していくことも重要です。

 インターンシップ等様々な取り組みを行うことで確保した従事者を、「緑の雇用」の育成につなげるという流れが重要です。「緑の雇用」を単独で活用したり、インターンシップ受け入れのみを実施したりするのではなく、様々な取り組みを組み合わせ、なおかつ継続的に実施していくことが重要です。

 インターンシップにより林業への就業意識を喚起し、若年の新規従事者を採用し、「緑の雇用」で育成するという流れが今後理想的な従事者の安定的確保育成の在り方になってくるのではと考えています。

 

 今回で森林管理の担い手確保に関するシリーズは終了です。次回以降はまた別のテーマで連載していこうと思います。

 

参考文献

筆者の卒業論文(2016年度提出)

森林管理と昆虫ーカミキリムシ類(1)

こんにちは。意識低い森林学徒です。今回の記事は、Aが担当します。専門は生態系管理学・森林動物学で、河川や森林に生息する生物の生態に注目しながら、生態系をかしこく管理するための方策を検討しています。

今回は「森林管理と昆虫」と題し、森林害虫の代表格であるカミキリムシ類について書いてみたいと思います。筆者はいわゆる昆虫博士ではないので、間違っている点も多々あるかと思います。そのあたりは、ぜひご指摘いただければと思います。第1回目は、カミキリムシ類全体の概説です。

(1)     カミキリムシ類概説

カミキリムシとは、主としてコウチュウ目(Coleoptera)・カミキリムシ科(Cerambycidae)に分類される甲虫の総称です。世界のカミキリムシの科及び亜科の分類は研究者により異なるため諸説ありますが、Svacha(1997)*の分類によれば、カミキリムシ科(Cerambycidae)、ホソカミキリムシ科(Disteniidae)、ケラモドカミキリムシ科(Hypocephalidae)、タマムシカミキリムシ科(Oxypeltidae)、ムカシカミキリムシ科(Vesperidae)の計5科に分けられます。このうち、本稿で扱うのはカミキリムシ科です。なお、本稿の内容は大林・新里(2007)による解説に基づきます。

1.1    系統と分類

まずは、カミキリムシ科内の系統関係について見てみましょう。Svacha and Danilevsky(1987)**によれば、カミキリムシ科にはニセクワガタカミキリ亜科(Parandrinae)、ノコギリカミキリ亜科(Prioninae)、ニセハナカミキリ亜科(Apatophyseinae)、カミキリ亜科(Cerambycinae)、ハナカミキリ亜科(Lepturinae)、ホソコバネカミキリ亜科(Necydalinae)、フトカミキリ亜科(Lamiinae)の8つの亜科が属します。亜科同士の系統関係については、Svacha(1997)が幼虫もしくは成虫が共有する派生形質から推定したものや(Fig.1)、Wang and Chiang(1991)***が8亜科中5亜科について行った推定(Fig.2)などがあります。

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Fig.1:Svacha(1997)によるカミキリムシにおける系統関係の推定(大林・新里 2007より)

このうちWang and Chiang(1991)は、フトカミキリ亜科、カミキリ亜科、ノコギリカミキリ亜科の3亜科は南極大陸を除く全ての主要大陸に分布しますが、ハナカミキリ亜科とクロカミキリ亜科はオーストラリア大陸に分布しないことから、前者の起源がより古いものと考えました。さらに、前者の3亜科はいずれも食性範囲が広く、裸子植物双子葉植物被子植物を寄主とするのに対して、後者の2亜科は被子植物を寄主としないことから、カミキリ科全体としては裸子植物を寄主として進化し、そこからいくつかの亜科において被子植物へと寄主の対象範囲が広がったと推定しました。また、ノコギリカミキリ亜科は幼虫における消化管や成虫中胸における発音版の形態特殊性が高いことも知られています。以上のような考察から、Fig.2のような系統関係が推定されました。

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Fig.2:Wang and Chiang(1991)によるカミキリムシ5亜科における系統関係の推定(大林・新里 2007より)

なお、上記の亜科のうち特に大きいグループはカミキリ亜科およびフトカミキリ亜科です。特にフトカミキリ亜科は、カミキリムシ最大の亜科であり、過半数の種を含んでいます。

1.2    形態

1.2.1      成虫

次に、形態です。カミキリムシの成虫は、通常11節(まれに12節)の長い触角が特徴的です(Fig.3)。ただし、数多くの亜科を含む膨大なグループであるため、その形態において共通の特徴を見い出すには例外が多く難しいと言われています。

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Fig.3:カミキリムシ成虫(ヨツスジハナカミキリ). (大林・新里 2007)

1.2.2      幼虫

カミキリムシ類の幼虫は細長いイモムシ型であり、特にホソカミキリ科ではその傾向が顕著です。体は通常は円筒型ですが、ハイイロハナカミキリ属など樹皮化で生活する種の一部では扁平です。幅は胸部で最も広く、尾端に向かって細くなります。体色は白色から少し黄色みを帯びるものまであり、頭部、前胸の一部、気門などを除けば表皮は全体的に柔らかいです。腹部の少なくとも背面には、寄主植物内で移動するための歩行隆起があります(Fig.4)。

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Fig.4:カミキリムシ幼虫(大林・新里 2007).

1.3    生態

1.3.1      生活環

続いては生態です。カミキリムシは、卵・幼虫・蛹・成虫という完全変態の生活環を持ちます。卵期間は短く、通常1~2週間で孵化します。それに対して幼虫期間は長く、通常は6~9カ月を要し、長いものでは数年に及ぶものもあります。最も長い幼虫期間において越冬を行う例が多いですが(e.g. マツノマダラカミキリ)、一方で一部の種においては、蛹室内で羽化した成虫がその中にとどまる形で越冬するものも存在します。幼虫越冬するものの多くは、中齢から終齢幼虫の状態で発育が中断された形をとります。

1.3.2      幼虫の食性

では、カミキリムシは幼虫期にどのようなものを食べているのでしょうか。カミキリムシの幼虫は食材性の穿孔性昆虫であり、主に内樹皮や維管束形成層を摂食します。このような食材性の穿孔性昆虫は一般的に、健全木を食餌対象とする一次性昆虫と、衰弱木あるいは枯死木を食餌対象とする二次性昆虫に分けられますが、カミキリムシの多くは二次性です。これは、健全木は栄養価が高い一方で、防御反応として樹脂を分泌するとともに壊れた細胞の修復を行うため、多くのカミキリムシが生存できないためであると考えられています。また、幼虫が食餌対象とする寄主植物の種類については、カミキリムシの種ごとに嗜好性があることが知られています。一般に、植食性昆虫類の嗜好性は単食性、狭食性、広食性の3つに分類されますが、カミキリムシではおよそ3割の種において特定の植物グループ(種、属、科など)に対する嗜好性があるようです。

1.3.3      後食

蛹から羽化した成虫はそれ以上成長することはなく、一般に成虫の寿命は幼虫期に比べて非常に短いです。しかし、成虫期においても、延命および生殖器官の成熟のために摂食行動を行います(例外はあります)。これはとくに“後食(こうしょく)”と呼ばれ、幼虫期の摂食とは区別されます。後食の対象となるのは通常植物質であり、花や樹液、樹皮や葉などが挙げられます。

1.3.4      交尾行動と産卵習性

多くの昆虫においては、野外で雌雄が出会うためにメス(オスの場合もある)が性フェロモンを放出して異性を誘引することが知られています。カミキリムシにおいても、スギノアカネトラカミキリなど一部の種において、オスが性フェロモンを放出しメスを誘引する例が報告されています(Iwabuchi 1982)。また、産卵や後食のために利用する植物が放出する化学物質を感知し、それにより集合する例もあります。カミキリムシの産卵は、カミキリ亜科、ノコギリカミキリ亜科、ハナカミキリ亜科などでは、メスが単に寄主植物の樹皮の裂け目やすき間に産卵管を挿入して行う方法が一般的です。一方でフトカミキリ亜科の多くの種においては、卵の保護や付加した幼虫の穿孔を助ける目的で、独自の産卵加工を行うことが確認されています。例えば、植物体の表面に咬み傷などの加工を施し、そこに産卵する例が知られています。

 

 

いかがでしたでしょうか。専門的な話が多くなってしまい、読みにくいかもしれません。。。次回は、カミキリムシの中でも特に森林害虫として名高い”とある”カミキリムシを取り上げて、その生態を紹介したいと思います。ではまた!

 

引用文献

Iwabuchi, K. (1982). Mating Behavior of Xylotrechus pyrrhoderus BATES (Coleoptera : Cerambycidae) I. Behavioral Sequences and Existence of the Male Sex Pheromone. Applied Entomology and Zoology. 17 (4):494-500.

大林延夫・新里達也編. (2007). 日本産カミキリムシ. 東海大学出版会. 神奈川. 818pp.

*,**,***:Svacha(1997)、Svacha and Danilevsky(1987)、Wang and Chiang(1991)は、いずれも原典が確認ないため、大林・新里(2007)からの孫引きです。