意識低い大学院生、森林を考える

某大学森林科学科の同期4人で運営する共同ブログです。森林・林業の魅力を発信し、最新の知見も紹介します。現在、大学院修士課程に在学中。

近年のスマート林業の動向(2)

 こんにちは。意識低い森林学徒です。今日も昨日に引き続いて、Tが担当します。ちなみにTは今日大学の健康診断に行ってきました。

 

スマート林業実践事例

 本章では、加藤(2018(6) 及び堀澤正彦(2018(7) を参考にしながら、スマート林業の実践事例を紹介する。信州大学農学部加藤正人教授(森林計測・計画学)はスマート林業の実現に向け、地域のステークホルダーや事業体と共同で多くの実証研究に取り組んでいる。信州大学を中心として構成される「LSによるスマート精密林業コンソーシアム」の名において、「レーザーセンシング情報を使用した持続的なスマート精密林業技術の開発」に掛かる研究が行われている。本コンソーシアムには、信州大学の他、北信州森林組合アジア航測株式会社、株式会社小松製作所が参画し、長野県北信州森林組合管内、長野県中信森林管理署管内、信州大学農学部構内演習林において実証研究を実施している。

 北信州森林組合では、航空レーザ計測データの活用により高精度地形情報の利用を実現している(下図)。以下、図はすべて堀澤(2018)から引用。

f:id:HU_forestry:20180524165254p:plainまた、ICT機器を使用することによる収穫作業の情報化に挑戦している(下図)。

f:id:HU_forestry:20180524165438p:plainICTの活用によって原木や製材に関する情報が一元管理され、素材生産者・流通加工業者・需要者間での情報の共有が容易になることが期待されている。

 本森林組合では、LS(レーザーセンシング)情報とICTを活用することにより、他産業並みの品質管理とSCM体制の構築を目指している(下図)。

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今後の課題

 山奥においてはIoTやICT、ネットワーク回線が通常のように動作しないという懸念はある。しかしながら、機器同士の接続等、簡易なものにおいては有効活用ができると思われる。

 また、実際には川下側(需要者側)が他産業のような品質管理やサプライチェーン・マネジメントを望んでいないという指摘がある。他産業においてはQCD管理(品質:Quality, コスト:Cost, 納期:Delivery)を行うことがすでに当たり前であるが、林業においてはそうでない。研究レベルで品質管理やSCM構築は進めてはいるが、実際に高度な流通経路を構築する必要性を、需要者側が感じていない可能性がある。

 さらに、現状としてはサプライチェーン全体にわたる「スマート化」を実現するのは困難であり、実際の活用としては森林情報のクラウド化程度にとどまっている。

 

引用文献

(6)加藤正人2018)日本林業の強化策-レーザーセンシングによるICTスマート精密林業.『山林』,No.1608, 大日本山林会.

(7)堀澤正彦(2018)ICT活用とSCMシステム構築の取り組み~スマート林業の実装に向けて~. 未来投資会議 構造改革徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合(農林水産業)(第9回)資料3.

 

その他参考資料

長谷川尚史(2018林業イノベーションの方向性.『山林』, No.1598, p.2-10, 大日本山林会.

木村穣(2018)今、なぜICT化なのか?.『山林』, No. 1604, p.38-41, 大日本山林会.

北河博康(2018)ロボットビジネスで林業の活性化を図る-ロボット×AI×IoTを活用した「儲かる林業」の実現に向けて-.『山林』, No.1607, 大日本山林会.

全国林業改良普及協会(2018)『現代林業, p.1-31, 全国林業普改良普及協会.

日本林業調査会(2017)『林政ニュース』, 565, p.7-9.

日本林業調査会(2018)『林政ニュース』, 576, p.21-22.

日本林業経営者協会(2017)『杣径』, No. 47, p.1-18.

鹿又秀聡(2017)森林GISクラウド化に関する現状と展望.林業経済』, Vol.70, No.7, p.11-27.

松村直人・野々田稔郎(2015)スマート林業を実現する新たな森林管理システムe-forestの設計. 三重大学大学院生物資源学研究科紀要』, 41, p.35-42.

中村尚・鈴木仁・山田浩行(2016)スマート林業に関わる先進事例調査とビジネスモデルの展望.『森林科学』, 78, p.36-38.

林野庁(2017).『平成28年度森林・林業白書』.

 

近年のスマート林業の動向(1)

 こんばんは、意識低い森林学徒です。今回の記事は最近夜更かしがひどいTが担当します。今日は、スマート林業の話題です。今日はTが所属する研究室でゼミがあったのですが、私が発表担当でした。ゼミにおいて、修士論文の進捗報告と共に、自主研究として「近年のスマート林業」の動向というテーマで発表を行いました。今回の記事は、ゼミ資料に沿って発表していきます。「スマート林業」については今後も継続的に自主研究として発表するつもりですが。今回はひとまず2回に分けて紹介します。

 

政策的背景

 2016年に策定された『日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-』において、「攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」が重要な政策課題として掲げられた。攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化に向けた施策として、「林業の成長産業化」について記述されている。具体的には、(1) 新たな木材需要を創出すること、(2) 原木の安定供給体制を構築することが重点課題となっている。新たな木材需要の創出に関しては、新国立競技場における国産材の積極利用、公共建築物等の木造・木質化の推進、建築材料としてのCLT(Cross Laminated Timber)の普及促進、木質バイオマスの利用促進等を行っていくこととされている。原木の安定供給体制の構築に関しては、森林境界・所有者の明確化、地理空間情報とICT(Information and Communication (1)

 また、2017年に発表された『まち・ひと・しごと創生総合戦略(2017改訂版)』(2)においても、地方創生に向けた重要な政策パッケージの1つとして、林業の成長産業化が掲げられている。林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るため、林業経営の集積・集約化の実施、新たな森林管理システムの構築、意欲と能力のある林業経営者と川下との連携、人材の確保及び育成等を図ることが示されている。また、CLTの普及に向けた総合的な施策の推進や木質バイオマスの利用など新たな木材需要の創出等も示されている。

 さらに、林野庁は2018年度予算において、林業成長産業化総合対策における「スマート林業構築推進事業」に約25億円を計上している(3)。対策のポイントとして、林野庁は「森林施業の効率化・省力化や需要に応じた高度な木材生産等を可能にする『スマート林業』を実現するため、ICTの活用による先進的な取組や、その普及展開を推進」するとしている。具体的な政策目標としては、民有林において一体的なまとまりをもった森林を対象に作成される森林経営計画の作成率を平成32年度に60%にまで高めることとしている(平成26年度は28%)。林野庁によれば、予算計上の背景として、次の2点の課題がある。1点目に、2016年5月の森林法改正を受け、「施業集約化を推進するため、市町村が所有者や境界の情報を林地台帳として2019年4月までに整備する仕組みが創設されたことから、市町村において確実に林地台帳が整備されるよう支援を行うとともに、この台帳情報を活用したスマート林業の実現に向けた取り組みを推進していくことが必要」(林野庁, 2017)があること。2点目に、「戦後造成した人工林が本格的な利用気を迎える中、人工林の有効活用や国産材の競争力強化に向け、国産材の安定供給体制を構築していくためには、近年目覚ましい発展を遂げている地理空間情報やICT等の先端技術を活用した実践的取組や林業機械の開発を促進することにより、意欲と能力のある経営体に施業を集約化し、効率的な森林施業を進めることが必要」(林野庁, 2017)があることだ。(4)

 このように、林業の成長産業化に向けて「儲かる林業」を推進していくことが最近の日本における林業のトレンドとなっている。

スマート林業の定義

 スマート林業に関する学術的な研究及び報告は近年多くなされている。

 林野庁は、スマート林業を「森林施業の効率化・省力化や需要に応じた高度な木材生産等を可能にする」林業であると定義している。具体的な取組は下図のようになっている(林野庁・平成30年度予算概算決定の概要より)。

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 ICT等の先端技術を、(1) 施業集約化の効率化・省力化、(2) 経営の効率性・生産性の向上、(3) 需給マッチングの円滑化、(4) 森林情報の高度化・共有化に用いることにより「スマート林業」を実現することとなっている。

 また、スマート林業については、東京大学大学院農学生命科学研究科の仁多見俊夫准教授(森林利用学)らによる研究が代表的である。「平成27年度から実施されている農林水産省のプロジェクト、『革新的技術開発・緊急展開事業』『ICTを活用した木材SCM(サプライチェーン・マネジメント)システムの構築』において、東京大学鹿児島大学三重大学住友林業の4グループが、それぞれ連携して活動している地域の特性の異なる地域林業活動においてこのスマート林業を構築すべく実証事業を進めて」(仁多見, 2018)(5) いる。仁多見(2018)はスマート林業を「『森林の育成や利用の計画(森林所有者、地域社会、行政機関との連携)』、『森林施業と生産された木材の管理(現場と事務所での林業従事者間の連携)』、『生産された木材の需要先とのマッチング(林業従事者と製材工場・木質バイオマスプラント等の需要者との連携)』、これら3つのセクションが適切に情報網で連結されシステム化された、いわば情報システム化林業」であるとしている。

 このように、「スマート林業」とは、ICTやIoT等の先端技術を活用することにより、林業においても他産業並みの品質管理やSCMを構築する一連の活動であるといえる。

引用文献

(1) 内閣府(2016)『日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて』.

(2) 内閣府(2017)『まち・ひと・しごと創生総合戦略(2017改訂版)』.

(3) 林野庁(2016)「平成30年度林野庁予算概算決定の概要」.

(4) 林野庁(2016)「平成30年度林野庁予算概算要求の概要」.

(5) 仁多見俊夫(2018)スマート林業とその可能性-森林資源の利用高度化とビジネスの創出-.『山林』, No.1604, p.6-15, 大日本山林会.

 

 それでは、今回はこの辺で失礼します。続きは明日更新します。

人類が土地を使い始めたその時に:森林から農地への転換に着目して

窓の外をふと見てみたときに、まっさきに見えるものは何だろうか。
私の研究室から外を見てみると、札幌の街並みや大学の建物が見える。
皆さんが見ている景色にも、必ずや人工物が映りこんでいるはずだ。

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Fig.1 大学から見える景色

人類は氷床に覆われていない、地球上の陸地の75%を利用し、改変してきた。今となっては、人類の手が加わっていない場所を探す方が難しいのだ。農地開拓により、食べ物に困ることは殆どなく、そして都市開発により豊かな生活を享受できている。

人類が豊かな生活を享受できるようになった一方で、土地利用により排他された生物もいただろう。人類が土地利用を開始したことにより、そこに住んでいた生物たちはどんな影響を受けたのだろうか...?

今回のブログではイギリスを例にこの答えを探ってみよう。

現在のイギリスでは、その国土のおよそ7割を農地が占める。しかし、農地に転換される前までは、森林や湿原が広がっていたことが知られている。考古学的な資料を記した文献 (Yalden & Albarella 2009; The History of British Birds)を解き明かしながら、森林が農地に転換された時代の、鳥類相の変遷をまとめてみよう。

時代は新石器時代にまで遡る。今から5,200年ほど前に、穀物と家畜化されたヤギやヒツジを伴って、農耕民族がイギリスに移入してきた。この頃からイギリス人は、家畜を飼養するための牧草地と、穀物を栽培するための土地を開拓するようになった。つまりイギリスでは、人類は5,200年ほど前から森林を切り開いて農地に転換、つまり土地利用を開始したのだ。

これまでに広がっていた森林を農地にしたのだから、森林性の鳥類ではなく開放地性の鳥類が優占するようになったことが予想される。しかしながら、この時代の遺跡から出土する鳥類相に着目してみると、森林性鳥類の優占が示唆されるのだ。例えばDowel Holeという場所では、ヨーロッパコマドリやシロビタイジョウビタキ(開放地性)ではなく、ヨーロッパシジュウカラ(森林性)が最も優占して出土した。ほかの地点でも、ヨーロッパカヤクグリ、シメ、ウソ、アオカワラヒワ、モリフクロウ、オオタカなど森林に生息するような鳥類が遺跡から出土している。

様々な地点の遺跡から、森林性鳥類が優占して出土していることを踏まえると、新石器時代のイギリス人たちは、景観を劇的に改変するほど集約的には農耕をしていなかったことが推察される。

しかしながら、青銅器時代(およそ4,000年前)に入ると鳥類相は大きく変化する。様々な遺跡から、チョウゲンボウ、ハト、ミヤマガラス、ムナグロ、ヨーロッパコマドリ、ツバメ、ショウドウツバメ、ヒバリなどの開放地性鳥類が優占して出土するようになるのだ。

青銅器時代以前の遺跡からは、ムナグロやタゲリは出土していなかったが、この時代からは多くの遺跡から出土するようになる。著者らは、この頃から、タゲリやムナグロがこの地域の開放環境で越冬するようになったのではないか、つまり、彼らの越冬に適した環境が形成されたのではないかと推測している。

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Fig 2. 農地を利用するムナグロ

青銅器時代に入ると、どうやらイギリス人たちはより積極的に森林を農地に転換し、そこに生息していた鳥類たちも、その影響を受けて変遷していったようだ。

まとめに移る。

イギリスの遺跡からは、農地開拓が進むにつれて森林性鳥類が姿を消し、開放地性鳥類が台頭するようになったことが示唆された。ただし、農耕開始直後はその影響はわずかだったようだ。農耕開始1,000年後くらいから、イギリスでは鳥類相を変化させるほどの影響を与えるようになったらしい。

次回以降は、湿原から農地への転換、そして日本の歴史とイギリスの歴史の比較を試みる。

 

森林に関する国際的な学生NPO団体

 お久しぶりです。だいぶ日が開いてしまいましたが気合いを入れて更新していきます。今回はゴールデンウィークに実家に帰省して英気を養い、若干テンションが上がっているTが担当します。

 

 今回は少しテイストを変えて、私が所属しているNPO団体の紹介をしたいと思います。International Forestry Students’ Association: IFSAという団体です。

 

1.IFSAってどんな団体?

 IFSAは世界中の森林科学専攻の学生が運営するNPO団体です。森林科学を専攻する学生に対し、学習と交流の機会を提供することを目的に日々活動しています。学生同士の交流イベントを開催したり、国際的な学術会議への参加を行っています。

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1-1 世界中の学生が運営するNPO

 IFSAの運営には10,000人を超える学生が関わっています。イベント企画運営、スポンサー開拓、広報、資金管理等、役割を分担しながら巨大な組織を運営しています。本部はドイツに置かれており、40以上の国や地域にメンバーが散らばっています。メンバーは各大学でIFSAの支部組織(Local Committees: LC)を組織し、運営しています。基本的に各大学に1つのLCが置かれています。日本では北海道大学京都大学にLCが設置されています。私はIFSAのLCの代表を現在務めております。

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1-2 学習と交流機会の提供が目的

 IFSAは世界中の森林科学専攻の学生を世界の同朋と繋ぎ、森林環境系団体との関りを持ち、森林及び環境に関する政策決定に関わるために活動を行っています。IFSAはvisionとして、「我々の森林にとって持続可能な未来を実現するために知識や理解を深め、また、若者の声を国際的な森林環境政策決定に届けるために森林科学を専攻する学生が国境を越えて連携する」ことを掲げています。また、missionとして、次の4つを掲げています。(1)全ての森林科学専攻の学生の利益のため、組織の継続を確保すること。(2)高等教育の改善に貢献し、学校外教育を促進すること。(3)森林科学を専攻する学生の視野を広げ、国際的な意思決定プロセスにおいて若者を代表すること。(4)IFSAの要求を満たし得る革新的で持続可能な財務管理計画を立案すること。

 また、IFSAメンバーを国際的な森林環境団体と結ぶことを目的としています。例えば、IFSAはInternational Union for Forest Resarch Organizations: IUFRO(国際森林研究機関連合)、Center for International Forestry Researach: CIFOR(国際林業研究センター)、Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO(国連食糧農業機関)等、大規模で力のある国際団体をパートナーとして抱えています。

 さらに、学生の声を国際的な政策決定に反映させることを目的としています。IUFROやCIFORやFAO等の団体がパートナーとなっているため、彼らの主催する学術会議や国際学会への参加が可能となっています。例えばIFSAはIUFROと共に、森林教育の分野で共同研究や啓蒙活動を行っています。Joint IUFRO-IFSA Task Force on Forest Educationという名で積極的な活動を展開しています。

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1-3 イベントや学術会議を開催

 上記のパートナーと共同でイベントを開催することに加えて、IFSA独自のイベントも企画しています。こちらは学生同士の交流を主としたもので、Internatinal Forestry Students’ Symposium: IFSSと呼ばれています。毎年各大学が持ち回りで主催し、2週間に渡り世界中のLCメンバーが集うIFSAの一大イベントです。残念ながら私は日程が合わずこれまで参加したことはありませんが、ぜひ一度参加してみたいものです。

 また、IFSS以外にも地域レベルで学生が集まるイベントもあります。私は日本の大学に通っているので、IFSAにおいてはアジア太平洋地域に区分されています。アジア太平洋地域のみの学生が集まり、IFSSのように交流や学習を行うイベントがあり、こちらはAsia-Pacific Regional Meeting: APRMと呼ばれています。私はこれまでに2回さんかしたことがあります。IFSSと同様、年に1回持ち回りで開催しており、2016年は京大が主催、2017年はインドネシア・ボゴール農科大学が主催しました。そして再来週から2018年のAPRMが始まり、今年はフィリピン大学ノスバノス校が主催です。今年は私はスケジュールの関係で参加できませんが、私たちの支部に所属する4年生の子が参加するので、報告を楽しみにしています。

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 今日はこのへんで終わりにします。ぜひ興味があるときにIFSAについて調べてみてください。それでは。

参考文献

IFSA HP: http://www.ifsa.net/

Joint IUFRO-IFSA Task Force on Forest Education: https://www.iufro.org/science/task-forces/forest-education/

画像:本日私が2年生向けにプレゼンしたIFSAの紹介資料から抜粋

森林管理と昆虫ーカミキリムシ類(2)

 こんにちは。意識低い森林学徒です。今日の記事は,花粉症シーズンが終わり元気になりつつあるAが担当します。前回の記事では,カミキリムシ類について,その基礎的な系統や生態のお話をさせていただきました。今回はその続きになります!

(2)日本最大の病虫害:マツ枯れについて

みなさんは「森林に害を与える野生動物」と聞いて,どんな動物を思い浮かべるでしょうか。昨今全国的に個体数の増加が懸念されている,シカでしょうか?それとも,どでかいクマでしょうか?

「森林管理と昆虫」と題してお送りしているこの記事で、記念すべき第1回目にカミキリムシ類を取り挙げたのには,もちろん理由があります。そうです,被害材積ナンバーワンは,マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)というカミキリムシがその一因となる病気「マツ枯れ」なのです。例えば,H27年度の統計ではマツ枯れの被害材積(=木の体積のこと)は48万㎥です。これに対して,獣害で被害ナンバーワンのシカはわずか7000haほどです。両者の単位が異なるため単純な比較はできませんが,日本の人工林面積が約1030万ha,その蓄積は3040万㎥であることを考えると,マツ枯れの被害面積は単純計算でおよそ16.3万haと推定できます。このようにマツ枯れは,シカを中心とした獣害の被害量を大きく上回ります。

 

ここで,前者の被害量が材積なのに対し,後者の被害量が面積で表されているのにはおそらく以下のような理由があります。いわゆる動物による被害の中でも,マツ枯れなどの虫害はカミキリムシやキクイムシが原因のため,稚樹(=若い樹)ではなくそれなりのサイズに成長した林分に発生します。一方で,獣害はかつてノネズミやノウサギによる被害が多く、その主たる対象は植栽したばかりの稚樹を食べられてしまうというものでした(1970年代には,ノネズミとノウサギ合わせて7万ha以上の被害面積でした)。それゆえ,両者の算出方法が異なると考えられます。

 

というわけで今回は,日本の林業における森林病害の代名詞である病気「マツ枯れ」について,紹介したいと思います。

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Fig.1:小豆島におけるマツ枯れ(以下リンクより引用)

http://www.ffpri-skk.affrc.go.jp/matu/qmatu_page1.html

2.1    “マツ枯れ”ってなに?

2.1.1      マツ枯れってどんな病気?

”マツ枯れ”とは,アカマツクロマツを中心としたマツ類が感染する病気で,正式名称は「マツ材線虫病」といいます。実はその主因は,カミキリムシではなくセンチュウです。マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)という大きさ1mmほどの小さなセンチュウは,北米原産であり,1900年代初頭に日本に持ち込まれたとされています(2.1.2参照)。このセンチュウは,マツの樹体内に侵入するとマツに水分ストレスを生じさせ,マツを衰弱させてしまいます。そして,このセンチュウ類を媒介してしまうのが,もともと日本にいたマツノマダラカミキリ,というわけです(Fig.2,3)。実際に,北米原産であるストローブマツやテーダマツといった種類は,マツノザイセンチュウに対して抵抗性を持っています。一方で,日本産であるアカマツクロマツリュウキュウマツなどは全て感受性です。

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Fig.2:マツノザイセンチュウ

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Fig.3:マツノマダラカミキリのオスとメス

2.1.2      マツ枯れの歴史と現在

マツ枯れの被害は1905年ごろに長崎県で初めて発生し,その後全国に広がりました。このことからも,恐らく北米からの船によってセンチュウが日本に侵入してしまったと考えられます。その被害量は1979年度(約243万m3)をピークに減少傾向にあり,2015年度の被害材積量はピーク時の5分の1程度(約48万m3)まで減少しています(Fig.4)。しかし,依然として日本国内においては最大の病虫害であり,対策を引き続き行っていく必要があるといえます。

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Fig.4:マツ枯れの被害材積の推移(H29年度森林・林業白書より)

2.2    “マツ枯れ”が生じる仕組みとその対策

2.2.1      マツノマダラカミキリの基礎知識

では,センチュウとカミキリムシによって,どのようにマツ枯れは引き起こされるのでしょうか。まずは,マツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus,以下マダラ)について紹介しましょう。

本種は,カミキリ亜科ヒゲナガカミキリ属に属し,体長は14~27mmほど、触角は雌雄ともに赤褐色でで、第3~9節の基部は白色がかります(Fig.3)。上翅は赤褐色の縦縞の間に濃褐色と灰白色の微網が交互に縦に並び,複雑な模様を呈します。中国・韓国・台湾・ベトナムラオスなどに広く分布し,日本国内においては青森県北部と北海道を除く地域に分布しています。成虫の材からの脱出は関東では5~7月ごろで,メス成虫は衰弱したマツの樹皮に咬み痕をつけて1個ずつ産卵します。その後孵化した幼虫は材内に穿孔し(=穴をあけて入り込むこと),蛹室を作ってその中で越冬します。通常は年1化ですが,東北地方などでは2年1化の場合もあります。

彼らはアカマツクロマツを主に摂食し,特に衰弱木や新鮮な枯死木を好み,その幹や太い枝を食害します。もともとアカマツクロマツとマダラが日本において共存してきたように,マダラ幼虫の穿孔だけでは,マツ類の枯死を招くことはありません。林業が盛んでなかった時代には,現在ほどマダラが利用できるマツの枯死木が無かったため,被害が少なかったとされています。既に述べたように,マダラはマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus,以下,センチュウ)を媒介することによって,枯死の間接的原因となってしまうのです。

2.2.2      マツノザイセンチュウはうまくカミキリムシを利用する

マツ枯れは,以下の図のような仕組みで生じます(Fig.5)。まず,マダラ成虫が寄主であるマツ科樹木から脱出します(図中1)。このとき,彼らはまだ性成熟をしていません。脱出後に健全な寄主の新梢や小枝の樹皮を食べることで成熟しますが(※これを後食といいました!前回の記事参照です),この際にマダラ成虫の気管内に入り込んでいたセンチュウが,後食痕から健全木内に入りこむのです(図中2)。これによりマツの樹勢が弱まると,樹脂の発生が抑えられ,成熟したマダラ成虫が産卵できる格好の場が誕生します(図中3,4)。

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Fig.5:マツ枯れの仕組み(森林研究・整備機構資料より).

 

このとき,センチュウがマツの樹勢を弱める原因は次の通りです。マツの樹体内に入り込んだセンチュウは,主に柔細胞と呼ばれる細胞から栄養を摂取します。柔細胞の変性や壊死により,樹体内で水分の運搬を担う道管内にある樹液の表面張力が低下し,キャビテーションと呼ばれる現象が生じます(※圧力の低下により道管内に気泡が生じ,水分を吸い上げられなくなってしまいます。穴の開いたストローだと,力いっぱい吸ってもうまく飲み物を吸い上げられないのと似ています)。これによりマツは水分を確保しにくくなり,樹勢が弱まってしまうのです。

 

そして、樹体内で増殖し広がったセンチュウが分散型3期幼虫というステージに入ると,マダラ幼虫が穿孔した孔道付近に集まるようになります(図中7,8)。そして,マダラが羽化する時期になると,センチュウは脱皮し分散型4期幼虫と呼ばれる状態となり、羽化したばかりのマダラ成虫の気門から気管内に入り込んで広がっていく,というわけです(Fig.6)。Fig.6はマダラの気管内にびっしりと詰まったセンチュウです。私もこの画像を見たときはさすがにぞっとしました。。。

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Fig.6:マダラの気管内に入り込んだセンチュウ.

このように,センチュウとマツノマダラカミキリは一般に相利共生の関係にあります(マダラはセンチュウを運搬しその拡散に寄与する,一方でセンチュウはマツの樹勢を弱めマダラの産卵場所を提供する)。ただし,大量のセンチュウを保持した場合には,マダラの寿命が短くなるなどのコストがあります。

一方で,マツノザイセンチュウの原産地である北米などでは,既に述べたようにマツ類がセンチュウに対して抵抗性を持っています。すると,センチュウにより樹勢が衰えることはないため,センチュウを媒介したとしてもカミキリムシにとっては自らの産卵場所が増えるわけではなく,利益を得ることができません。従って,北米では両者は片利共生的な関係にあるといえます。実際,マツの丸太上にセンチュウとマダラ幼虫を人為的に摂取した実験においては,センチュウが存在するだけでは,マダラ成虫の体重や発育期間に影響がないことが示されています(富樫 2016)。

2.2.3      マツ枯れの対策

ここまで述べてきたように,マツ枯れはカミキリムシとセンチュウの見事なコンビネーションにより生じます。もちろん,我々の側もこれに対して何らかの対策を行わなければなりません。一番の対策は,被害木の伐倒薫蒸や薬剤の散布になります。また事前対策としては,マツ林周辺の感染源を排除するために,マツ林周辺の林分を広葉樹林へ樹転換する、激害地において生存した個体から抵抗性のある苗木を生産し(いわゆる育種),それを造林に用いる,などが挙げられます。

参考文献

後ほど整理します!

 

いかがでしたでしょうか。日本全国で猛威をふるったマツ枯れは,今も根絶されたわけではありません。地球規模の気候変動により気温上昇や異常気象の多発がますます進むことになれば,マツ枯れについても今までになかった新たな問題が生じるかもしれません。例えば,現在では被害のない北海道で広まる可能性もあるわけです。今後も,事前対策と事後対策を組み合わせ,その被害を最小限に抑えていく必要があります。

実は,森林に被害を与えるカミキリムシはマダラだけではありません。次回は,最近(といっても少し前ですが)NHKのニュースにも取り上げられた”はやり”のカミキリをお届けします。そして次々回(最終回)では,これまでの3回を踏まえて森林管理の方策について検討してみたいと思います。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!