意識低い大学院生、森林を考える

某大学森林科学科の同期4人で運営する共同ブログです。森林・林業の魅力を発信し、最新の知見も紹介します。現在、大学院修士課程に在学中。

森林管理の担い手は確保できるのか

みなさん初めまして。意識低い森林学徒です。大学院生という立場で森林科学及び森林・林業・木材産業について勉強する中で感じたことや考えたことをアウトプットしたいと考えブログを開設するに至りました。ブログを通して考えを発信する過程で、文章を書く練習もできればなあと考えています。

 本日は意識低い森林学徒3名のうち、Tが執筆を担当します。私の専門は森林政策学です。駄文・凡文をお許しください。今回は、「土砂災害と森林の関係」と「森林管理の担い手確保手段はあるか」をテーマに文章を書いてみます。

1.土砂災害と森林の関係

 一昨日の未明、大分県中津市において大規模な山崩れが発生し、現場付近の住民の方が犠牲になりました。報道を見聞きして、再びこのような悲劇が起こらないようにする方法はないのだろうかと考えを巡らせている方も多いかと思います。森林科学を学ぶ私としては、今回の土砂災害は、日本における森林管理の在り方について改めて考えるきっかけとなりました。というのも、森林は土砂災害を防止する役割を担っているからです。今回の山崩れの原因や詳細等についてはまだ調査中であるため断定はできませんが、森林が適切に管理されていれば山崩れは起こっていなかった可能性もあります。

 ところでみなさんは「治山」や「治水」という言葉をご存知でしょうか。三省堂大辞林の解説によると、治山とは、植林などにより山を整備し、山から災害の原因を除くこと、治水とは、河川の氾濫を防いだり、水運・灌漑の便をよくしたりすることとなっています。「急峻な地形で降水量が多く、それが一時期に集中する日本では、洪水、渇水、山崩れ、土石流、地すべりなどの自然災害が起きやす」く、また、「世界中の火山の約1割が日本列島に分布し、火山災害の発生も多い」です。さらに、「日本列島はユーラシアプレートに太平洋プレートが潜り込む地点に位置することから、大規模な地震災害にも見舞われて」(矢部 2012)います。したがって、「治山」や「治水」は「これら自然災害から国民の生命、財産を守る国土保全政策の枢要な部分を占めてい」(矢部 2012)ます。

 「治山」や「治水」は河川法、砂防法、森林法等に基づき実施されています。中でも森林法及び地すべり等防止法の規定に基づき実施される「治山事業」は、森林の維持造成を通じて、山地災害から国民の生命・財産を保全するとともに、水源の涵養、生活環境の保全・形成等を図る重要な国土保全政策の1つとされています。

 治山事業はさらに「保安施設事業」と「地すべり防止工事に関する事業」に細分化されています。保安施設事業は、保安林の指定目的を達成するため、国又は都道府県が行う森林の造成事業又は森林の造成若しくは維持に必要な事業、地すべり防止工事に関する事業は、林野庁が所管する地すべり防止区域における地すべり防止工事に関する事業と定義されています。

 このように、森林は「保安林」を中心に、土砂災害防止等の国土保全に重要な役割を果たしているのです。保安林についての詳述は省略しますが、保安林は日本の森林面積の約半分を占めています。そのうちの6割が国有林です。

2.森林管理の担い手を確保する手段はあるか

 では、この広大な森林を誰が造成し、誰が管理しているのでしょうか。読者の皆様の多くは林業という営みの中で下草刈りや枝打ち、間伐等の作業が行われていることはなんとなくご存知かとは思います。しかしながら実際にそのような作業をしたことがあるという人は少ないと思います。下草刈りや枝打ち、間伐等の作業は森林を適切に管理する上で欠かせないプロセスです。

 日本においては、森林管理は「林業事業体」が主体となって実施されています。林業事業体とは、森林組合林業会社等、実際に山林現場において植林や伐採、搬出等の作業を行う事業者を指しています。一般の企業において社員がいなければビジネスが回らないように、林業事業体においても、実際に現場で作業する方(以下、私の記事においてはこのような方々を「林業従事者」や「林業担い手」と呼称します)がいなければ森林管理が継続できません。林業の担い手がいなくなれば、日本の森林管理が、ひいては治山事業の継続が危ぶまれるのは理解していただけるかと思います。

 これを踏まえ、現在、担い手不足と高齢化の進行が林業における慢性的な課題となっていると聞いたとき皆様は何を感じるでしょうか。何か解決策はないのだろうかと考える方が多いかと思います。f:id:HU_forestry:20180414164724p:plain

 上の図をご覧ください。こちらは林業従事者数の推移をグラフ化したものです。「平成28年版 森林・林業白書」より、筆者が作成しました。林業従事者は年々低下しているという点、林業従事者においても少子高齢化が進行しているという点がまずは目につくかと思います。しかしながら、グラフをよく見てみると、従事者数の減少が下げ止まり傾向にあること、高齢化率が2000年度をピークに減少に転じていること、若年者率が1990年度を底に増加していることも見て取れます。従事者の確保や少子高齢化に一石を投じる、何か有効な対策があったのかもしれません。

 次回以降、近年関係者から注目を集め、一定の効果が上がっている政策制度について説明しようと思います。お付き合いいただきありがとうございました。

 

参考文献

矢部 三雄(2012).「第8章 保安林、治山・治水政策」, 『改訂 現代森林政策学』. pp.137-149.