意識低い大学院生、森林を考える

某大学森林科学科の同期4人で運営する共同ブログです。森林・林業の魅力を発信し、最新の知見も紹介します。現在、大学院修士課程に在学中。

森林管理と昆虫ーカミキリムシ類(1)

こんにちは。意識低い森林学徒です。今回の記事は、Aが担当します。専門は生態系管理学・森林動物学で、河川や森林に生息する生物の生態に注目しながら、生態系をかしこく管理するための方策を検討しています。

今回は「森林管理と昆虫」と題し、森林害虫の代表格であるカミキリムシ類について書いてみたいと思います。筆者はいわゆる昆虫博士ではないので、間違っている点も多々あるかと思います。そのあたりは、ぜひご指摘いただければと思います。第1回目は、カミキリムシ類全体の概説です。

(1)     カミキリムシ類概説

カミキリムシとは、主としてコウチュウ目(Coleoptera)・カミキリムシ科(Cerambycidae)に分類される甲虫の総称です。世界のカミキリムシの科及び亜科の分類は研究者により異なるため諸説ありますが、Svacha(1997)*の分類によれば、カミキリムシ科(Cerambycidae)、ホソカミキリムシ科(Disteniidae)、ケラモドカミキリムシ科(Hypocephalidae)、タマムシカミキリムシ科(Oxypeltidae)、ムカシカミキリムシ科(Vesperidae)の計5科に分けられます。このうち、本稿で扱うのはカミキリムシ科です。なお、本稿の内容は大林・新里(2007)による解説に基づきます。

1.1    系統と分類

まずは、カミキリムシ科内の系統関係について見てみましょう。Svacha and Danilevsky(1987)**によれば、カミキリムシ科にはニセクワガタカミキリ亜科(Parandrinae)、ノコギリカミキリ亜科(Prioninae)、ニセハナカミキリ亜科(Apatophyseinae)、カミキリ亜科(Cerambycinae)、ハナカミキリ亜科(Lepturinae)、ホソコバネカミキリ亜科(Necydalinae)、フトカミキリ亜科(Lamiinae)の8つの亜科が属します。亜科同士の系統関係については、Svacha(1997)が幼虫もしくは成虫が共有する派生形質から推定したものや(Fig.1)、Wang and Chiang(1991)***が8亜科中5亜科について行った推定(Fig.2)などがあります。

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Fig.1:Svacha(1997)によるカミキリムシにおける系統関係の推定(大林・新里 2007より)

このうちWang and Chiang(1991)は、フトカミキリ亜科、カミキリ亜科、ノコギリカミキリ亜科の3亜科は南極大陸を除く全ての主要大陸に分布しますが、ハナカミキリ亜科とクロカミキリ亜科はオーストラリア大陸に分布しないことから、前者の起源がより古いものと考えました。さらに、前者の3亜科はいずれも食性範囲が広く、裸子植物双子葉植物被子植物を寄主とするのに対して、後者の2亜科は被子植物を寄主としないことから、カミキリ科全体としては裸子植物を寄主として進化し、そこからいくつかの亜科において被子植物へと寄主の対象範囲が広がったと推定しました。また、ノコギリカミキリ亜科は幼虫における消化管や成虫中胸における発音版の形態特殊性が高いことも知られています。以上のような考察から、Fig.2のような系統関係が推定されました。

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Fig.2:Wang and Chiang(1991)によるカミキリムシ5亜科における系統関係の推定(大林・新里 2007より)

なお、上記の亜科のうち特に大きいグループはカミキリ亜科およびフトカミキリ亜科です。特にフトカミキリ亜科は、カミキリムシ最大の亜科であり、過半数の種を含んでいます。

1.2    形態

1.2.1      成虫

次に、形態です。カミキリムシの成虫は、通常11節(まれに12節)の長い触角が特徴的です(Fig.3)。ただし、数多くの亜科を含む膨大なグループであるため、その形態において共通の特徴を見い出すには例外が多く難しいと言われています。

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Fig.3:カミキリムシ成虫(ヨツスジハナカミキリ). (大林・新里 2007)

1.2.2      幼虫

カミキリムシ類の幼虫は細長いイモムシ型であり、特にホソカミキリ科ではその傾向が顕著です。体は通常は円筒型ですが、ハイイロハナカミキリ属など樹皮化で生活する種の一部では扁平です。幅は胸部で最も広く、尾端に向かって細くなります。体色は白色から少し黄色みを帯びるものまであり、頭部、前胸の一部、気門などを除けば表皮は全体的に柔らかいです。腹部の少なくとも背面には、寄主植物内で移動するための歩行隆起があります(Fig.4)。

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Fig.4:カミキリムシ幼虫(大林・新里 2007).

1.3    生態

1.3.1      生活環

続いては生態です。カミキリムシは、卵・幼虫・蛹・成虫という完全変態の生活環を持ちます。卵期間は短く、通常1~2週間で孵化します。それに対して幼虫期間は長く、通常は6~9カ月を要し、長いものでは数年に及ぶものもあります。最も長い幼虫期間において越冬を行う例が多いですが(e.g. マツノマダラカミキリ)、一方で一部の種においては、蛹室内で羽化した成虫がその中にとどまる形で越冬するものも存在します。幼虫越冬するものの多くは、中齢から終齢幼虫の状態で発育が中断された形をとります。

1.3.2      幼虫の食性

では、カミキリムシは幼虫期にどのようなものを食べているのでしょうか。カミキリムシの幼虫は食材性の穿孔性昆虫であり、主に内樹皮や維管束形成層を摂食します。このような食材性の穿孔性昆虫は一般的に、健全木を食餌対象とする一次性昆虫と、衰弱木あるいは枯死木を食餌対象とする二次性昆虫に分けられますが、カミキリムシの多くは二次性です。これは、健全木は栄養価が高い一方で、防御反応として樹脂を分泌するとともに壊れた細胞の修復を行うため、多くのカミキリムシが生存できないためであると考えられています。また、幼虫が食餌対象とする寄主植物の種類については、カミキリムシの種ごとに嗜好性があることが知られています。一般に、植食性昆虫類の嗜好性は単食性、狭食性、広食性の3つに分類されますが、カミキリムシではおよそ3割の種において特定の植物グループ(種、属、科など)に対する嗜好性があるようです。

1.3.3      後食

蛹から羽化した成虫はそれ以上成長することはなく、一般に成虫の寿命は幼虫期に比べて非常に短いです。しかし、成虫期においても、延命および生殖器官の成熟のために摂食行動を行います(例外はあります)。これはとくに“後食(こうしょく)”と呼ばれ、幼虫期の摂食とは区別されます。後食の対象となるのは通常植物質であり、花や樹液、樹皮や葉などが挙げられます。

1.3.4      交尾行動と産卵習性

多くの昆虫においては、野外で雌雄が出会うためにメス(オスの場合もある)が性フェロモンを放出して異性を誘引することが知られています。カミキリムシにおいても、スギノアカネトラカミキリなど一部の種において、オスが性フェロモンを放出しメスを誘引する例が報告されています(Iwabuchi 1982)。また、産卵や後食のために利用する植物が放出する化学物質を感知し、それにより集合する例もあります。カミキリムシの産卵は、カミキリ亜科、ノコギリカミキリ亜科、ハナカミキリ亜科などでは、メスが単に寄主植物の樹皮の裂け目やすき間に産卵管を挿入して行う方法が一般的です。一方でフトカミキリ亜科の多くの種においては、卵の保護や付加した幼虫の穿孔を助ける目的で、独自の産卵加工を行うことが確認されています。例えば、植物体の表面に咬み傷などの加工を施し、そこに産卵する例が知られています。

 

 

いかがでしたでしょうか。専門的な話が多くなってしまい、読みにくいかもしれません。。。次回は、カミキリムシの中でも特に森林害虫として名高い”とある”カミキリムシを取り上げて、その生態を紹介したいと思います。ではまた!

 

引用文献

Iwabuchi, K. (1982). Mating Behavior of Xylotrechus pyrrhoderus BATES (Coleoptera : Cerambycidae) I. Behavioral Sequences and Existence of the Male Sex Pheromone. Applied Entomology and Zoology. 17 (4):494-500.

大林延夫・新里達也編. (2007). 日本産カミキリムシ. 東海大学出版会. 神奈川. 818pp.

*,**,***:Svacha(1997)、Svacha and Danilevsky(1987)、Wang and Chiang(1991)は、いずれも原典が確認ないため、大林・新里(2007)からの孫引きです。