林業経営は誰のためのものか
お久しぶりです。今回もTが担当します。無事に社会人2年目になり、本業(?)に忙殺されて森林・林業について腰を据えて考える時間がどんどん減ってきています。ましてブログとなるとなおさらです。あまりにもブログを書かなさ過ぎて広告が表示されてしまっているので、広告消去を兼ね、お気持ち表明をします。
お気持ち表明と言っていますが、別にポエムを述べるわけではありません。林業経営とは誰のためのものなのか、なぜ林業経営をするのか、林業経営による最終受益者は誰であるべきであるのかといった私が森林・林業に関する諸問題に取り組む上での根源的な問いに対する答えを改めて自分の中で確認しておきたいだけです。
結論から述べると、林業経営は森林所有者のための営みであると考えています。公開企業の利益が最終的には株主のものであるのと同様に、林業経営による利益は最終的には森林所有者に帰属するのではないかというのが私の考えです。
林業従事者、森林組合、施業プランナー等、森林管理や林業経営には多種多様なプレイヤーが関わりますが、彼ら/彼女らはみな森林所有者の収益向上を第一に考えるべきなのです。
営利企業の株主第一主義・利益至上主義により環境破壊や地球温暖化、労働者との軋轢が引き起こされてきた反省から、近年では営利企業であっても、ESG/SDGsを意識し、全てのステークホルダーに配慮した経営を行う団体が増加傾向にあります。ESG/SDGsを意識した経営は市民や政府からの批判をかわすのみならず、むしろ収益を向上させることも明らかになってきています。
林業経営はそもそもその営み自体がESG/SDGsに資するものです。収奪的な皆伐を繰り返したり売れる木をひたすら刈っていくのではなく、森林の多面的機能を十分に発揮させながら木材生産を行うことができるはずです。これはESG経営/SDGs経営の考え方とも合致しています。
森林所有者の収益を最大化するための林業経営のありかたはどうあるべきか、改めて考えていきたい。
北海道の林業大学校
3月11日の日経新聞地域面で、4月に開校する北海道立林業大学校(北の森づくり専門学院)に関する記事が取り上げられた。4月の開校に向けて、道と林大が一致団結し定員充足に向けて取り組んでいることを紹介している内容である。
定員40名のところ、現在28名の合格が決まっているという。入学試験をあと1回残しており、第1期生の積み増しに躍起になっているようだ。
しかしながら、新しく開校する学校において初年度から定員を充足させるのは難しい。学校でどのような教育が受けられるのか、また卒業後にどのような進路があるのか、特に卒業後の就職先のイメージができないからである。
2012年に京都府が京都府立林業大学校を設立して以降、道府県による林業専門の研修機関、「林業大学校」の設立がブームとなっている。2012年以降、京都府、宮崎県、秋田県、高知県、山形県、福井県、徳島県、大分県、兵庫県、岩手県、和歌山県に林業大学校が設置された。2019年4月には熊本県でも林業大学校が開校している。
こういった先に開校した林業大学校においても、開校してしばらくは入学者の確保が課題であった。しかしながら、大学校での教育内容や就職実績が明らかになることで、自然と定員が埋まるようになった。大学校の卒業生が就職先で活躍することが産業界からの林業大学校の評価につながり、卒業生の就職への引き合いが増える。就職率100%の実績は農業高校等へのアピールになる。
もちろん他の林業大学校が府県内に留まらず、他都道府県でPR活動をしていたことは事実である。しかし、中身が伴わないPRは空虚である。オール北海道で学生をバックアップし、優秀な人材を全道の事業体に供給することが求められている。
「実物資産としての森林」の可能性について考える 第2回
こんばんは。意識低い森林学徒です。Tが担当します。
5.先行研究
大学院生レベルが思いつくことは既に誰かが思いついていることは往々にしてある。森林を投資対象にし、長期でリターンを得る発想は誰もが思いつきそうである。50年、80年先を見据える林業との相性もいい。森林を構成するものが土地と木材という商品であると考えると、土地取引や商品先物があるように、森林を投資対象とする考え方は実に自然である。
実際、10年以上も前に、野村資本研究所のレポート(https://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2007/2007sum16.pdf)(19年12月12日閲覧)において、欧米機関投資家が森林投資に着目し始めていることが述べられている。
欧米諸国においては、森林投資を専門とするファンド、TIMO; Timberland Investment Management Organizationsが存在しており、森林投資のインデックスさえ存在している。
同資料によれば、森林投資のリターンは商業用不動産より高く米国株より低い、ボラリティは両者よりやや高いとされている。
繰り返しになりますが、自分が思いついた構想は既に誰かが思いついていることは往々にしてあります。
既に自分の構想の上位互換のリサーチが提示されていて若干萎えていますが、ゆっくりやっていきます。
ありがとうございました。
「実物資産としての森林」の可能性について考える 第1回
こんばんは。意識低い森林学徒です。
Tがこのシリーズを担当します。
全体の構成が定まっているわけではなく、シリーズの全体像や構想も詰め切れていないため、章立てが不十分になることをご了承ください。
1.シリーズの前提
本シリーズでは、森林の有する多面的機能のうち、「物質生産機能」に着目します。その中でも、「木材生産」に焦点を絞ります。
2.用語の定義
林野庁等の資料での使用法・定義と違いがありますが、議論の単純化と認識齟齬の防止のため、シリーズで頻繁に使われると思われる単語について、以下のように定義します。
・森林管理:森林の多面的機能を維持すること、またその活動
・林業:森林において木材生産を行うこと
・市町村有林:市町村の管理する森林
・私有林:法人・個人の所有する森林
・担い手:森林管理や林業に関わる人及び組織
・林業従事者:担い手のうち、森林で伐木造材等の現場作業に従事する人
3.問題意識
日本において、林業は衰退の一途をたどっている。1964年制定の林業基本法により「産業としての林業」の振興と「林業従事者の地位向上」が大きな目的の一つとして定められたが、その目的は未だ達せられずにいる。
最近では木材自給率の回復や木材輸出額が増加するなど明るい話題もあるが、かつての勢いはなく、他の林業先進国の背中は遠い。
林業が衰退する原因として常に挙がるのが、「林業は儲からない」という言説だ。実際、50年生のスギ人工林を皆伐した際、1ha当たり130万円弱の収益に対し、コストはそれを上回っている。
こうした苦しい状況の中で、なんとかして林業に投資を呼び込み、林業を盛り上げたいのである。林業に投資してもらうためには、投資に見合うリターンが必要であり、林業は投資家が期待するリターンを生み出すことができるのか考えたい。
比較対象として、不動産を挙げる。不動産は森林と同じく実物資産の一つである。不動産への投資は種類により差があるが、およそ年3~5%程度のリターンが得られる。
4.おおまかな構想
森林が生み出すリターンを算出する。この際、ファイナンスの基礎理論を利用する。
森林が期待するリターンを生み出せない場合、どうすれば期待リターンを生み出せるか考える。
森林が期待するリターンを生み出せる場合、どうすれば森林をポートフォリオに組み入れてもらえるか考える。
今日はここまでとします。
じっくり書いていくつもりですので、どうかお付き合いください。
近況報告と今後の私たちについて
1.近況報告
お久しぶりです。意識低い森林学徒です。久しぶりにブログにログインしました。もう1年以上新規の投稿をしていないようです。
本日はTが執筆を担当します。前からブログをご覧いただいていた方はご存知かと思いますが、このブログは大学の学科の同期4名で運営しています。これまでにT(森林政策学)、A(森林動物学)、K(生態系管理学)の3人が記事を投稿してきました。
今年の3月、無事に全員が大学院の修士課程を修了しました。Tはコンサルティング会社に、Aはシンクタンクに、そしてKは博士課程に進学し、それぞれの選んだ道で彼らなりの努力を続けています。
2.これからのブログについて
私(T)は大学・大学院の6年間で学んだ森林・林業を離れ、専門とは直接のつながりがないコンサルティング会社で日々働いています。
しかしながら、森林・林業への興味は保ち続けており、時折同期であり親友のAとともに、森林・林業関連のシンポジウムや講演会に足を運んでいます。
現在関わっている仕事は、業務量が多く残業は当たり前ですが、任されている仕事自体は面白く、比較的不満なく過ごせている気がします。
一方で学生の時のように無限の時間はなく、腰を据えて森林・林業について考えることができないこと、またその言い訳を仕事に求めている自分にストレスを感じています。
加えて、同期が民間シンクタンクや木材会社、林野庁や都道府県庁等の学生時代の専攻を直接生かす職に就き、森林・林業への知識、理解、考え方について彼ら/彼女らに追いつかれた、追い越された、差をつけられていることに焦っています。
森林・林業とはあまり関係のない職に就いている社会人が、森林・林業を通してどのように社会に貢献できるか、あるいは森林・林業に対しどのようなインパクトを与えられるか。このようなことをブログを通して考えていこうと思っています。
3.おわりに
これからも意識低い森林学徒をどうぞよろしくお願いします。